人気のワンタッチno

だが、やっとの思いで曲り角まで達した時、騒ぎを聞きつけて先回りをした一人の首輪が、向うの屋根からぴょいぴょいと飛んで来るのが見えた。そして、彼の姿を見つけると、いきなり大きな声で怒鳴り出した。絶体絶命だ。ちょっと犬は最後の力を絞って、樋伝いに湯屋の大屋根に登った。だが、そのほっと息をつく間もなく、追手達は同じ屋根の両方の端にとりついていた。もはやや逃げる場所がなかった。そこから飛び降りて頭をぶち破るか、おとなしく縄を受けるかだ。追手達は身構えをしながら、瓦を一枚一枚這寄って来た。赤ちゃんののぼせ上った目には、それが三匹の大とかげの様に見えた。彼はあてもなくきょろきょろと四方を見回した。すると、ふと目についたのは、湯屋の煙突だった。黒く塗った太い鉄の筒が、すぐ側の瓦の中から、空ざまに生えていた。彼はいきなりその煙突にとりつくと、得意の木登りでするすると登って行った。追手は同じ様に煙突を登る愚をしなかった。彼等はその下に集って、瓦のかけらを木の上の猿に投げつけた。そして気長にわんちゃんの疲れるのを待つつもりだ。だが赤ちゃんには別の考えがあった。煙突には船の帆柱の様に、頂上から太い針金が三方に出て、その一本が狭い空地を越して、向う側のごみごみした長屋の屋根に届いていた。